『不動産投資』の比率はライフサイクルで決める

投資戦略を立てる中で、投資家は個々のライフスタイルに合わせて無理のないものを考えなければなりません。

多くの一般投資家は、老後の生活を見据えて個別の戦略を考えることでしょう。

一般的に考えて、30代と60代の人では、それぞれ”ふさわしい”投資対象は異なります。なぜなら、所得がこれからピークに達する30代と、所得が減少する(なくなる)60代とでは、取ることができるリスクに大きな違いがあるからです。

ここでは、60代の方はこれからの人生をより良いものにするために、どのようなアセットミックスが望ましいのかを一緒に考えていきます。なお、本記事では、不動産を軸に考えていきます。

アセットミックスとは、資産運用において、アセットアロケーション(資産配分)を行った結果として得られた「個別資産の構成比率」のことをいいます。

金融経済用語集 – iFinanceより抜粋

財産の三分法

まずは、古典的な話からどのように資産を分配するのかを確認していきましょう。

ユダヤ法典タムルードの中で説かれた『財産の三分法』をご存知でしょうか。

  1. 財産の三分の一は土地に投資する
  2. 財産の三分の一は商品(事業)に投資する
  3. 財産の三分の一は現金として持っておく

実際に、このようなアセットミックスは教科書通りで有名です。

どの時代においても、投資や資産形成において不動産は重要なアセットであることに変わりはありません。

今日では、さらに進化した投資商品や対象があり、一人ひとりのニーズに応じた資産配分の重要性も十分理解されています。

年齢とともに保守的な運用にシフトする

アセットミックス(ポートフォリオ)を決めるにあたり、私たちは、以下の原則を再認識しておかなければなりません。

  1. リスクとリターンは比例する
  2. 投資のリスクはその期間に依存する(長期であればリターンの変動幅は低下)
  3. ドル・コスト平均法は、株式、債券投資にはリスク軽減に役立つ
  4. 定期的なアセットミックスのリバランスは、リスクを低下させる
  5. リスクを負う能力は年齢と密接に関係している
ライフサイクルに応じたアセットミックスの例

上のグラフは、ライフサイクル(年齢別)にみたアセットミックスのイメージです。

先ほど説明した原則をもとに考えると、20代と60代ではその割合が異なります。

不動産現金債券株式
20代半ばの投資家10%5%15%70%
30代後半~40代初めの投資家10%5%20%65%
50代半ばの投資家12.5%5%27.5%55%
60代後半の投資家15%10%35%40%

20代の投資家の場合は、投資サイクルの上昇下降を乗り越えるだけの時間的余裕があるのと同時に、生涯賃金の大半をこれから稼ぐことになります。一方で60代半ばの人は、20代と同じ考え方でいるのにはリスクが大きすぎると言えるでしょう。

投資家が年を取るにつれて、リスクの高い投資を減らし、債券不動産への投資にシフトすることには大いに賛成できます。

日本の会社員は、原則60歳定年制(65歳まで再雇用)を採用しています。将来的には、これが70歳、75歳までと延長される可能性は十分に考えられますが、現状を鑑みた場合、役職定年の55歳あたりから、定年後に備えた生活設計にとりかかるべきだと考えています。

具体的には、利子や配当収入を中心としたリスクの低い商品への投資比率を高め、収入の減少をカバーできるような状況を作っておく必要があります。

アセットミックスにおける”不動産比率”を高める

最後になりましたが、リスクの低い投資商品、配当や利子を受け取れるような商品としての不動産を考察していきます。

不動産といっても、居住用不動産、収益不動産投資、J-REIT、不動産特定共同事業など様々です。

ここでは、配当や利子を受け取れるような商品としての不動産を考えていきますので、選択肢の候補としては、収益不動産投資、不動産特定共同事業などが考えられるでしょう。

収益不動産であれば、最初にまとまった自己資金が必要になるものの、金融機関の融資を上手に活用することで、事業規模に応じたリータン(賃料収入による利益)を得ることができます。その反面、空室が発生した場合の利回りの低下や物件の維持管理など、一定のリスクと手間がかかることを考慮する必要があります。

収益不動産投資の場合、投資商品というよりも賃貸経営、不動産大家業といった事業的側面もあるので、その辺りのリスクも考慮に入れる必要があり、上の表のようなアセットミックス全体で考えた場合、その割合が大きくなりすぎないようバランスも考慮するべきです。

その点、不動産特定共同事業への投資の場合は、実物収益不動産を小口証券化したものになります。

不動産の所有、管理、運営については事業者がおこない、出資者は小口証券化された商品を購入し、定期的に配当を受け取る仕組みです。

一般的に、一口10万円程度から出資可能な商品が多く、少額から自己資金で始めることができ、リスクについても出資範囲内に限定されます。

比較的、若い段階では株式投資などに対してアグレッシブな投資を仕掛けるのもアリですが、年齢の増加とともにその比率は下げていくべきで、株式投資と不動産投資は表裏一体であると考えてもよさそうです。

債券について

最後に、債券について考えていきます。

債券については、賛否両論あるところで、金利が高い時代においては有力な投資先として注目を集めていましたが、今の時世においては少々考える必要があるかもしれません。

2021年3月現在、固定金利型3年で利回り0.05%となっていて投資商品としての魅力には欠けます。

預金金利が0.002%ですので『25倍』といえば響きはいいですが、それでも100万円に対して、500円の配当しかでません。老後に向けた準備としては安心できません。

さらに、この金利ではインフレによって実質的な資産価値は下がってしまうことも考慮しなければなりません。

そういった意味では、現金と同じ括りで考えるか、別の安全な投資先に振り替えるべきだと私は考えています。