不動産投資のイールドギャップに潜む罠

不動産投資を学んだことがある方なら一度は耳にしたことがある『イールドギャップ』という言葉。

あなたは、この言葉の意味と性質をきちんと理解して不動産投資の実務に落とし込めているでしょうか。

少し難しく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、順を追って読んでいただければ必ず分かるようになっていますので、最後までご確認下さい。

イールドギャップとは

最初に、イールドギャップの意味についてです。

イールドギャップとは、[不動産投資の利回り]から[金融機関の借り入れ金利]を引いた差分のことで定義は以下の通りになります。

イールドギャップ=利回り-借入金利

言葉の定義としては間違いではありませんが、この方程式をそのまま鵜呑みにしてしまうと、後に取り返しのつかない問題につながる恐れがありますので、注意が必要です。

イールドギャップ算出時の注意点

イールドギャップを算出する際に何点か注意しなければならないことがあります。

不動産投資を始めようとしている方は、これからたくさんの投資用不動産を目にされると思いますが、以下の点にも注意しながらチェックするといいと思います。

なお、今回の物件の表面利回りは6.5%借り入れ金利は2%で設定します。

ここでの単純な間違いとして「表面利回りが6.5%で借入金利は2%。だからイールドギャップは4.5%なので投資として利益が出せる」といった考え方です。

この考え方は、単純で極めて危険な考え方になりますので注意して下さい。

注意点1:実質利回りで計算されているか

先程イールドギャップとは、[不動産投資の利回り]から[金融機関の借り入れ金利]を引いた差分だとお伝えしました。

実質利回りの定義を考える

ここで注意していただきたいのが、[不動産投資の利回り]の定義についてです。

イールドギャップの計算には"表面利回り"を使ってはいけません

イールドギャップの計算式で扱う『利回り』には『実質利回り』を用います。

実質利回りとは、家賃収入から運営経費(管理費、光熱費各種、損害保険、固定資産税、雑費等)を引きくことで算出される実際の収入投資額(不動産価格+諸経費)で割った実際の利回りのことを言います。

実質利回り=(賃料収入-運営経費)÷総投資額

実質利回りを算出すると・・・

では実際に利回りを算出していきましょう。

5,000万円の物件を諸経費7%、合計5,350万円で購入したとします。

この不動産の表面利回りは6.5%、空室率20%、経費率20%です。

このような条件で算出した場合には、実質利回りは以下のようになります。

満室時想定年間収入:325万円(表面利回り6.5%)
実質年間収入:260万円(空室率20%)
経費:52万円(経費率20%)*借入金利含まず
営業利益:208万円
投資総額:5,350万円
実質利回り:3.88%

このように、賃貸経営の実態に合わせてみると、実質利回りはかなり小さくなりましたね。現状満室であれば空室率は0%で問題はありませんが、様々な試算をする場合に、入居率100%想定で考えるは試算としてはアバウト過ぎです。

想定数値で算出する場合には、多少の努力値を込めるのは問題ありませんが、”ゆとり”を持たせておくべきです。不動産投資では想定外のトラブルや意図しない退去も発生します。空室損を考慮した上で、入居率は設定しておくべきでしょう。

注意点2:イールドギャップを算出する際は”期間の概念”を入れる

さきほど実質利回りを計算したところ、3.88%/年でした。

3.88%から借入金利の2%を引いて1.88%、これならきちんと運用はできている。こう考えるあなたは、かなり危険です。

”引かれる対象”と”引く対象”、借入金利が2%ですが、これには”期間の概念が一切含まれていないからです。

期間の概念とはどういうことか?

『期間の概念』と聞くと、話が一気に難しくなった気がしますが、とてもシンプルです。

同じ2%の借入金利であっても、10年の返済なのか30年の返済なのかによって、年間の支払額が大きく異なり、前提条件が崩れてしまいますね。

同じ金額を10年の返済期間で借りた場合は、30年で借りた場合に比べて返済金額は大きくなりるからです。

期間の概念を入れて借入金利を算出する

そこで、借入金利に対して期間の概念を組み込む便利な計算式を使います。

借入金利に対する年間返済金額の比率を算出します。これをK%(ケーパーセント)といいます。K%は以下の計算式で算出することができます。

K%=年間支払額(利息+元本)÷借入金額

ここで年間返済金額を借入金額で割っていますので、K%の値は返済期間によって変化します。

実数に置き換えてみます。

5,000万円を金利2%で10年返済にした場合は

K%=年間支払額(552万円)÷5,000万円

11.4%となります。

30年で返済した場合はというと、

K%=年間支払額(222万円)÷5,000万円

4.4%になります。

K%がこれで算出されました。

改めて正確なイールドギャップを算出してみる

これまで、実質利回りを算出し、期間の概念を組み込んだ”借入金利”を算出しました。

そこで、実数に落とし込んだ数値を算出してみましょう。

イールドギャップの算出方法は以下の通りでしたね。

イールドギャップ=実質利回り-K%

この方程式に当てはめて算出していくと、

借入期間10年の場合は、3.88%-11.4%=▲7.52%(マイナス7.52%)

借入期間30年の場合は、3.88%-4.4%=▲0.52%(マイナス0.52%)

です。どちらもイールドギャップはマイナスになるため、借入をすることで損をするということになります。

仮に空室率が10%だった場合は、実質利回りは4.37%になるため、借入期間を30年にしても、-0.03%です。

つまり、この物件を運用する場合、借入をすることで損をする計算になります。この損を解消するには、稼働率を上げるか経費を下げるかのいずれかの対策を取らなければなりません。

また、実質利回りは期間の経過とともに下がる傾向にありますので、金利が一定である以上はK%は変わらず、損益が大きくなってしまいます。

つまり、この物件の場合は持ち続けることで、キャッシュフローはマイナスになります。

表面上の数字に踊らされてはいけない

このように、表面利回りや実質利回りを算出して、金融機関の借入金利の差分だけしか見ていないと、キャッシュフロー赤字に陥るケースが多々あります。

このような事からも、空室を出さないための賃貸経営、経費率の調整はもちろんのこと、金融期間からの借入期間というのが非常に大切な要素になってくるのだと理解できるのではないでしょうか。

具体的な数字は極論なのかもしれませんが、ただ単に”表面利回りが高いからと言って、安易に飛びつくのではなく、実質的利回り(稼働状況等)や利回りの下落見込み(賃料の下落等)も想定しながら、シュミレーションをかけていく必要があるということです。

不動産投資で利益を出すのは非常に難しく、物件選定がとても重要であるということがお分かりいただけるのではないでしょうか。